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2014-01-12

小説 『Y's BAR へようこそ』 第8話 【好奇心こそが人生の扉を開く】

「BARでオムライスを注文する」という珍事件が発生したことは記憶に新しい。

あれ以来、Y's BAR がお気に入りとなったノリ君とタケ。

最近ではカクテル各種に飛びつき、何やら色々と循環物色するようになった。



『マスター、一通りカクテルを試したら、俺達もボトル入れてみようと思うんですけど』

セブンスターの煙を人気のない所へフウーッと吐き出してノリ君は言う。

来店初日の挙動不審さは何処へやら。

今では昔からの常連客であるかのような振る舞いである。

『うん、それは君達の自由でいいと思うんだけど・・』

マスターは諭すようにやさしく話しを続ける。

『仮にウイスキーを入れるにしても、スコッチとバーボンでは香りも風味も全く違うものだし、

他にもアイリッシュやカナディアン、ジャパーニーズと主に5つに分類されているんだよ。

そして、その中からさらにシングルモルトやブレンデッドなど数多く枝分かれしていくんだ』

『うわあ、ウイスキーってビールくらいの違いしかないと思ってました・・』

ノリ君は、この日の2杯目に頼んだモスコミュールに口をつける。



『ワインだって同じ樽から抽出した物でも、熟成年数や保存状態で全く別な味になる。

だから全く同じ味のワインはこの世に2つと存在しないし種類は天文学的数字なんだ』

マスターの説明を聞いているうちに、ノリ君はますますBARの魅力に引き込まれていった。

『だからキープボトルを入れるなら、「これがいい」って心から思える銘柄に出会えるまで、

いろいろとショットで試してみるのが良いと思うんだ。』

もちろんマスターも、お酒よりも会話を楽しみたいお客には「手頃な価格のボトル」を勧める。

そのほうが飲み代の節約になるし、おしゃべりがしたいお客にもたくさん来店してもらえる。

だが、今のノリ君は純粋にたくさんのお酒に興味を持ち始めている段階。

本人が楽しめている事ならたくさんの経験を積ませてあげたいというマスターの親心だった。



隣では、マスターから借りたカクテルの本を熱心に読みふけっているタケが、

チーズ鱈をウサギのようなおちょぼ口でムニムニと食べ、相変わらず念仏を唱えている。

『おいタケえ~!?お前も会話に参加しろよっ、そんなの家でも読めるだろォ?』

タケはノリ君の顔を見やると、ニイ~ッと薄ら笑いを浮かべながら言う。

『珍しい物好きのノリ君が、1つのボトルだけ飲み続けるなんて絶対無理だね。シシシ』

すかさずノリ君がタケの頭をペチッと叩く。

『うるせえよバカ!!まだ運命の酒に出会ってないだけかも知れないだろォがっ』

一体ノリ君は、タケの頭を年間あたりどれ位叩いているだろう?

お笑いコンビのような二人のやりとりは、時に微笑ましく目に映る。

『うん、ノリ君カッコイイこと言うねえ』

マスターが会話に参加する。

『男も女も、運命の人に巡り会えるまで恋愛し続ける。それと一緒かな?』

『さすがマスター、まとめてくれてありがとうございますっ!!』



どんな雑談でも構わない。

自分の知らないことに対し、真剣に思考してみたり意見をぶつけ合えることがあれば。

分からないことを分からないままで放置することで、人間のIQはどんどん低下する。

きっかけが何であれ、好奇心こそが人間を成長させ新しい世界への扉を開いてくれる。



『俺もね・・初めてBARに入った時はソワソワしたよ』

シャンパングラスを磨きながらマスターが言う。

『19歳のクリスマスイブの日、財布の中に3万円入れてさ・・懐かしいよ』

『うおお、カッコイイですねえエ。彼女ですかぁ?』

タケが楽しそうに聞く。

『残念ながら男だよ。横浜で刑務官をしていた同級生。君達が初めてうちに来た時のように』

プッと思い出し笑いをしながらマスターが続ける。

『テーブル席に座って初めにしたことは、一杯あたりの値段がいくらなのか。

想像してたのよりも全然安くて、すごくホッとしたのを今でも覚えているよ』

『ああーっ!!やっぱりみんな最初は同じなんですねエ~』

ノリ君とタケは、マスターにもそんな時代があったことを聞いてますます親近感を抱くのだった。



初来店をBARの常連客に連れてきてもらえば、それほど緊張することもないだろう。

しかし、マスターとカウンターにいる若い二人組みは何も知らずに飛び込んでみた。

「ただの好奇心」だけを原動力に。

だからこそ、自らの足で新しい世界の扉を開けることができたのだ。

マスターは彼らを見て、やはり何時の時代でも変わらないことはあると思った。

「興味があること」「気になること」はやってみたほうがいい。

仮に恥じをかくことがあったとしても、それが一体何だというのだろう?

恥ずかしいと死んでしまうのか?恥をかくと人間の成長は止まってしまうのか?

そんなことはない。

一つだけ間違いなく言えるのは「知識が一つ増えた」ということである。

そして「それをやらなかった後悔」よりも、その先の人生はより豊なものになる。



カウンターも賑わい始めた22時過ぎ『カラン』と入り口の扉が鳴る。

『おうっ!デコボココンビ、やってんなぁ!?』

『あっ鈴本さん、こんばんわぁ』

本日7人目のお客が Y's BAR の扉を開けた。



 END

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