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2014-01-05

小説 『Y's BAR へようこそ』 第3話 【オムライス(後編)】

ドシャ降りの夜、Y's BAR へ迷い込んできたノリ君とタケ。

彼らが入店してから30分ほど経過していた。

小鉢に添えられたナッツとあられをカリカリとつまみながら、

ノリ君は熱心にメニューを読み続けているタケの方をボーッと眺めていた。



『あ~、腹減ったなぁ・・タケ?』

ノリ君が店の外に目をやると、入店時に比べて雨の降り方は少し落ち着いていた。

『ったくよォ、お前がキャバクラ行きたいとか言い出すから逃げ遅れたんじゃねえか?』

相変わらずメニューを読みながら念仏を唱えているかのようなタケを尻目に、

ノリ君は二本目のセブンスターに火を付けると話しを続けた。

『タケ、これ飲んだら行くぞ。帰りに牛丼おごれよなぁ?』

全く返事をしないタケにイライラを募らせていたノリ君が、

『お前なあ、人の話し聞いてんのかよォ!?』

と言いかけたのと同時に、ムクッと顔を起こしたタケがマスターに言う。

『あのォ、オムライスとかも食べられるんですか?』



『・・・!!??』

カウンターで左端に座る鈴本と、右端に座るノリ君がタケを見る。

と同時に、ノリ君がタケの額をペチッと叩いた。

『お前バカじゃねエのか!?ある訳ねえだろォォ!!!』

『痛いよぅノリ君・・だってさぁ、一番最後に書いてあるコレ読んでよォ!?』

「フードメニュー」の最後の欄には、こう書かれていた。



*【裏メニュー】とりあえず頼んでみて下さい(混雑時はお受け出来ない場合あり)



「恥かかせるんじゃんえよ顔」のノリ君に必死で食い下がるタケ。

一部始終を聞いていた鈴本が、とうとう堪えきれずに『プッ』と吹き出した。

『君達、BAR へ来るのは初めてかい?』

鈴本のやさしい問いかけに『はぁ・・』と拍子抜けしていた二人が答える。



『BAR はお酒がメインなのは、もちろん知っていたと思うんだけど?』

『確かに』という顔で頷く二人に鈴本は続ける。

『貸切なんかで事前予約しておけば、料理なんかも予算に応じていくらでも用意できる。

けれど、通常はナッツ類のような乾き物やチーズみたいな簡単なおつまみだけなんだよね』

(ほら見ろ、バカ)そんな顔でタケを見るノリ君、そんな二人にマスターが話しかけた。



『チキンライスだけは、冷凍食品の物になっちゃうけど・・』

『はっ??』という顔でキョトンとしている二人にマスターは、

『二階が自宅だから、タマゴ取ってくるよ』と、あっさり承諾。

『作るのかよォォ!!??』

思わず鈴本からの突っ込みが入る。



『晴さんも、何度かパスタ食べているじゃないですか?』

マスターは表の看板の照明を落とすと、

『裏メニューっていうのは、こういう日のためにあるんです』

『それに食材と時間がある限り、僕はお客さんのリクエストに応えますよ』

そう答えると鈴本に店番を頼み、マスターは二階へ上がって行った。



「BAR でオムライスを食べる」

おそらく普通の利用者なら考えたりはしないだろう。

しかし、常識に囚われていない人間の発想はいつでも斬新である。

素晴らしい「ビジネスプラン」とは、いつもこの様なきっかけで誕生するのだ。



カウンターの中央ですっかり打ち解けた三人は、

マスター特製のオムライスを食べながら1時間近く会話を楽しんだ後で解散した。



『またおいでよ、今度はウイスキーのこと教えてあげるからさ』

ようやく小降りとなった店の出口で、鈴本が二人に言う。

『はい・・なんだか、今日は楽しかったです。ありがとうございました』

ノリ君が嬉しそうに答える。

デコボココンビと鈴本は、それぞれ逆の方向に向かって歩いて行った。



数日後、再びアルバムを持って来店した鈴本。

最初のページには、カウンターとバックバーのボトルを背景に、

通常ならば観ることはないであろう「斬新な作品」がそこには写し出されていた。

『うん、面白いですね。晴さん・・タイトルは何ですか?』

鈴本は満足気な表情を見せながら答えた。

『もちろん、【オムライス】だよ』



 END

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コメント

あけましておめでとう!

診療所のパソコンでしかインターネットをしないので、、、久々に覗いてみれば様子がちょっと違ってました。

今年もよろしくね。

何をホノボノ小説書いてるの?、、、って感じ。
でも案外楽しいかも!

Re: あけましておめでとう!

先生、明けましておめでとうございます。

今年のブログはこんなスタイルで行こうかと。

私も本日よりトレード開始です。

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