fc2ブログ
2013-09-21

Y’s 小説 【錆びたナイフ】 ~ 第1話

【錆びたナイフ】  yuuki:著



* 第1話

『・・・お前と、この話しをするのは何回目だったっけな?』

ふうーっとソファに深く腰掛け、金田は押し殺すように静かな口調で話し始めた。

『いやあ、2回目くらいじゃないですかねエ?』

顔中アザだらけのユウジは、悪びれる様子もなくニイッと笑みを浮かべる。

『バカ野朗オオオ!!! 片手じゃ収まらねえんだよっ!!』

チッ、結局いつもこうなる・・・コイツと『男の約束』ってやつをしたばっかりに。



金田が、千葉県の片田舎に『金田ボクシングジム』を設立して今年で12年が経つ。

東京にある名門『東拳ジム』で、トレーナーのキャリアを積みながら選手を育成し、

日本チャンピオンを1人輩出した後、40歳で古巣から独立することを決めた。

金田ジムの獲得タイトルとしては、『東日本新人王』が1人のみ。

後は『日本ランキング8位』が1人に、A級ボクサーが3人といったところ。

地方のジムということもあり、エリートをスカウトできるような実績はまだない。

そしてこのジムの1期生が、金田の目の前に座っている男『入江ユウジ』だった。



入江ユウジ・31歳(元ウェルター級東日本新人王・元日本ウェルター級8位)。

戦績:37戦19勝(19KO)18敗

ユウジは現在2連続KO(ノックアウト)負け。

金田はこれまで何度もコミッションに呼び出され、

ユウジに対して引退を示唆する提案を受けてきた経緯がある。



ノーガードで打ち合う『ベア・ナックル時代』を経て、ボクシングは飛躍的な進化を遂げた。

近代ボクシングにおいて『ディフェンス』や『カウンター』といった技術は、

まさに科学的根拠の集大成であり、ユウジのスタイルは時代の進化に逆行していた。



『どんな相手でもKO』とにかくKOにこだわるユウジのファイトスタイルに、

ボクシングの聖地、後楽園ホールはいつも大いに湧き上がる。

しかも、そのほとんどは『ワンパンチによるKO』である。

脅威のスタミナとパンチ力だけを武器に、無敗で勝ち上がった『全日本新人王決定戦』。

そこで初黒星を喫した後も、ユウジは自分のスタイルを決して変えようとはしなかった。

KO負けで連敗を喫すれば、引退勧告が出るのは至極当然のことであろう。



会長職に就いた後も、金田にはトレーナー時代から守り続けているルールがあった。

それは『選手がぶっ壊れる前に引退させること』である。

チャンピオンを目指すのは選手の務め、選手を壊さずに引退させるのは指導者の務め。

トレーナー時代『リング渦』により、教え子の1人を危険な状態にさせた経験がある金田は、

『何があってもこのルールだけは守り抜こう』と強く心に決めていた。



そしてユウジが日本ランキングから転落した年に、2人は『ある約束』を取り決める。

『3連敗を喫した時点で無条件に引退する』

ユウジからの提案を受け、金田は何とかコミッションを説得することができたのだ。

あれから5年、KO負けの多い選手は当然試合からも遠ざかっていく。

『ユウジ、もういいだろう?壊れる前に引退しようや』

金田とユウジの話し合いは、これまでに何度となく行われてきた。

その度に金田を激高させるのが、ユウジの吐き出すこの台詞だ。

『でも会長、俺まだ2連敗以上したことないですよォ』

引退のかかった試合で、ユウジは必ずKO勝ちを決めてきた。

これは『強運』なのか?それとも『悪運』と呼ぶべきか?

そう、ユウジは約束を破ってはいないのだ。

これで金田はいつも黙らざるを得なくなる。



何故ユウジは、これほどまで『KO勝ち』にこだわるのか?

無理な打ち合いを避ければ、ワンサイドの判定勝ちだった試合はいくらでもあった。

それでもユウジは、頑なにKO決着だけを選択し続けてきたのである。

『KO勝ち』にこだわるユウジのルーツは、少年期にまでさかのぼる。

ユウジの父親は、実戦空手の師範だった。



* 第2話へ続く



 

スポンサーサイト



   

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://yuuki20120509.blog.fc2.com/tb.php/455-b2f1cb11
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

Copyright (C) 「Y's BAR」 へようこそ. All rights reserved. Template by Underground